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日本の技、日本の品質、日本の味わいを掲げ、グローバル市場に挑戦している企業様を訪ねています。

世界が追い越していったのか、はたまた日本が衰退したのかわかりませんが、昨今、経済・社会・生活の豊かさなど様々な分野で、世界における日本の地位低下が言われています。しかし本当にそうでしょうか?

日本には世界に誇れる技術や伝統、文化があって、多くの企業様の努力によりその価値が各国で認められています。さらに、そうした既存プレーヤーに加えて、新たに自社の商品・技術の世界への発信にチャレンジしている企業様もあるのです。

このシリーズでそのような企業様が、いかにグローバル市場に挑戦されているのか、皆様に紹介したいと思います

新シリーズとして、

九州佐賀の

皆様の活動、

特に

海外市場に向けた

取り組みを

ご紹介します。

今回ご紹介するのは

九州屈指の温泉地、茶どころの

佐賀、嬉野、

下田製茶舗様です。

(https:/shimodaseichaho.jp)

日本の伝統の結晶でありながら、日本国内での需要が減る一方の時代のお茶。お茶離れがすすみ、お茶は家庭で淹れるのでなく、ペットボトルで買ってくる時代のお茶。

そのような時代お茶の産地としての嬉野の苦境を救い、ご自身の茶商としての生き残りをも賭け、下田製茶舗様は海外進出に取り組み、マーケットインで新たな市場を切り拓かれたのでした。

ですが、そのためには乗り越えなければいけない壁がもう一つありました。

最大の輸出国であるカナダ、さらにその先に広がる市場である欧米諸国のお客様に楽しんで頂くため、求められるものがありました。

いやいや品質にこだわらず、ということではなかったのでしょうか?実際にお客様から、下田製茶舗様の嬉野茶に求められるものとは何だったのでしょうか?

それは、品質以前の問題として、お客様の販売国・地域での輸入品への規制の壁をどう乗り越えるか、というものでした。

前号で触れましたように、カナダの茶商は欧州への再輸出ビジネスのウェイトも大きいのですが、

そのために彼らが原料として使う茶葉には、EUの残留農薬への基準適合を求められます。

通常日本茶は化学農薬を使用しながら栽培しますが、これは実は、規制の厳しいEUの基準に適合しないものも含まれており、排除しなければならないのです。

そこで下田製茶舗様は、

EU基準に文句なしに適合するため「無農薬茶」を輸出する、

という結論に行き着いたのでした。

しかしこれこそ言うは易し行うは難しで、また決して一朝一夕にできることではありません。

日本茶で農薬を使うのはまず若芽などを害虫や病害から守ること、いわゆる防除機能のためですが、

これを使わず、無農薬にすると嬉野茶の神髄である初夏の若芽が害虫・病害の危機に晒されるわけで、栽培技術的に難しくなるのは言うまでもありません。

また、何年も農薬を使用したあとの圃場での茶木や土壌レベルで残留分は、当然茶葉にもゆくわけです。

この残留分が茶葉に影響が出ないくらいまで抜けるのに数年の時間を要します。

さらに農薬は散布時に飛散しますから、周囲の圃場からの影響も当然あるわけです。

それらを含め、相当のノウハウが無農薬には必要になります。

下田製茶舗様は、これらの困難を克服するため、ある宮崎の生産者、また地元の嬉野の複数の生産者と連携し、「無農薬茶」の圃場を確保することに取り組まれました。

まず宮崎県にいらっしゃる、技術的に優れており、規模も大きく生産している生産者様に一定区画を無農薬用に確保してもらいました。

そこでの栽培で4年かけてデータを蓄積、EU規制に適合するレベル、さらにはその圃場で
JASオーガニック認定を取得してもらいました。

次にその生産者から、無農薬化のノウハウを、2つの嬉野の生産者にも展開してゆきました。

栽培技術が難しいこともあり、実は無農薬ではあまり高い品質のお茶は求められません。

しかし日本人の考える品質よりも、この無農薬栽培によるEU規格適合は市場に入るためには絶対に必要なことです。

品質とはなんだろうか、というところで、

日本市場で培われた品質ニーズでは決してなく、

実際に売ってゆく海外市場で求められるものを「品質」としてこだわった結果の無農薬栽培によるお茶、だったのです。

最終的にこれら宮崎、嬉野の生産者からのお茶に基づいて、

下田製茶舗様はJASオーガニック認定を取得されました。これにより、下田製茶舗様の供給する茶葉はEU基準を満たすものとして、カナダのお客様にも認定頂きました。

また一方、下田製茶舗様は、原料サプライヤーとして求められることへの対応もしっかりすすめられました。それは、「安定供給」です。

下田製茶舗様では上記のような宮崎県と嬉野で無農薬の生産者ネットワークにより都合25町分の圃場は確保し、海外の需要にも対応しています。

一度、二か月程度で50トン(40フィートのコンテナで3-4本分)の受注も得ましたが。このときは自店のネットワーク内のみならず、静岡等の無農薬栽培のメーカーにも協力してもらい、どうにか搔き集めて先方の希望納期通りに出荷した、ということです。

日本のお茶は鎌倉時代に禅僧の栄西が中国から茶木を持ち帰ったことが起源、とされていますが、歴史、文化の変遷を経て、日本独自の発展を遂げてきました。

その代表としては、茶の湯があります。

また、最近はPETボトルに押されてだいぶ影が薄くなりましたが、

お茶を淹れて頂く、という文化が広く国中にあります。

しかし、今回の下田製茶舗様の挑戦は、こうした日本の伝統の要素としてのお茶を輸出されるというものではないようです。

むしろ、世界にあるお茶を楽しむ文化のなかで、

その文化の一つの材料として、

如何に日本の、九州嬉野の緑茶、

Green Teaのおいしさを楽しんで頂くか、

ということに尽きるということです。

そのためには、

まず前提としてEUの基準をクリアするため、生産者とチームを作り、無農薬栽培のお茶を輸出できるようにした、ということなのですね。

実は日本酒でさえもそうなってきていますが、

日本の文化、伝統を輸出するのではなく、

海外の既に確立された文化のなかで、

如何にその文化の材料として対応させてゆくか、

輸出で成功するためには、こだわりや先入観を捨ててそのようなアプローチで挑んでゆく、ということに尽きると思います。一般の工業・サービス分野ではマーケットインは当たり前のことですが、日本の伝統文化に根付いた産品であっても、やりことは同じなのですね。

文化・伝統とは、人々の生活が変わってゆく中で不変ではありません。それが、日本ではなく、海外で起こっている、いや日本の伝統的な材料を使って、海外での文化の在り方を変えてゆく、その起爆剤となるようなお茶の輸出、ということなのでしょう。

下田製茶舗様は、ドバイ、英国との商談もあらたに進んでいるということ。

さらに新たなお茶の文化づくりへの挑戦が広がってゆきます。

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By AYUGO01

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