All rights are reserved under the copyright of Yasuyuki Ayukawa (2023)
日本の技、日本の品質、日本の味わいを掲げ、グローバル市場に挑戦している企業様を訪ねています。
世界が追い越していったのか、はたまた日本が衰退したのかわかりませんが、昨今、経済・社会・生活の豊かさなど様々な分野で、世界における日本の地位低下が言われています。しかし本当にそうでしょうか?
日本には世界に誇れる技術や伝統、文化があって、多くの企業様の努力によりその価値が各国で認められています。さらに、そうした既存プレーヤーに加えて、新たに自社の商品・技術の世界への発信にチャレンジしている企業様もあるのです。
このシリーズでそのような企業様が、いかにグローバル市場に挑戦されているのか、皆様に紹介したいと思います。
新シリーズとして、
九州佐賀の
皆様の活動、
特に
海外市場に向けた
取り組みを
ご紹介します。
今回ご紹介するのは
矢野酒造様です。
(https://yanoshuzou.jp)
肥前蔵心
純米吟醸
矢野酒造様の「肥前蔵心」を代表する銘柄は「肥前蔵心純米吟醸」です。
きりりとひきしまった味わいながら、のみごだえのある味わいが特徴で、地域ならでは、矢野酒造様ならでは特徴を活かし、心をこめて酒造りをする、という、肥前、蔵心を具現化するような銘柄になっています。
矢野酒造様では、この生酛(きもと)仕込みにより、この「肥前蔵心純米吟醸」を醸造されています。生酛仕込み・山廃仕込みにして、矢野酒造様の立地の地域、蔵ならではの特徴を出すというのです。
生酛仕込み・山廃仕込みとは何でしょうか。
お酒の醸造は、麴菌の発酵でお米の炭水化物を糖分にすることと、酵母の発酵で糖分をアルコールにすることをパラレルに行います。
そのパラレル発酵のスタートでベースとなるものが酛(もと)です。
ここでアルコールをたくさん酵母が作れるように、環境を乳酸により酸性にします。
そうすると酵母が繁殖・活動しやすい環境になるほか、発酵に関係のない微生物、つまり雑菌の繁殖も抑えられます。
この酸性の環境を作る際に、今では乳酸をあらかじめ醸造タンクに添加する、速醸と呼ばれる方法が通常とられます。
生酛仕込み・山廃仕込みでは、このように乳酸を添加するのではなく、空気中など、その環境にいる乳酸菌により、環境を酸性にするのです。
肥前蔵心純米吟醸でも、蔵に現にいる乳酸菌が蒸米上で活性化されるように環境を整え、乳酸を十分分泌させてから酵母を投入します。
乳酸菌は実は特別なものでなく、どこにでもいるのですが、場所の環境により、様々な異なる種類のものがいるのです。
微生物の種類について、人間が把握しているのは全体の1割前後ほど、つまり人間の把握している菌の10倍もの菌種、菌のバリエーションがあります。
それぞれの微生物は、それぞれある環境の中で、それぞれに小さな生態系を作っています。
そしてその生態系のなかで自然淘汰があり、結果的にその環境に最も適した種類の微生物が最終的に勝ち残り、棲みついているのです。
つまり、一口に乳酸菌といっても、矢野酒造様の蔵のなかに棲みついている乳酸菌は、矢野酒造様の蔵ならでは、その環境に最も適した乳酸菌なのです。
人工的に乳酸を添加するのではなく、その蔵ならではの乳酸菌が出す乳酸を使って、蔵の個性を出したのが、肥前蔵心純米吟醸です。
また肥前蔵心純米吟醸をはじめとして、矢野酒造様では比較的きりりとした辛口の味わいのお酒を造られています。
これは比較的気候温暖な九州、佐賀、鹿島のお酒では希少価値がある味わいです。
お酒の発酵では、発酵の環境温度が高ければその進行は速く、糖類が多く形成され、甘く、濃淳な味わいになる傾向があります。
みかんなどの柑橘類が主要産品である鹿島では普通に醸造を進めるとこの傾向になり、甘口のお酒になります。
この環境のなかでの、辛口の味わいも矢野酒造様ならではの個性に繋がっています。
そのための工夫もいろいろあり、たとえば醸造は冷蔵設備のある製品保管用倉庫のなかで行っています。
地の酒づくりで
海外へ
そのような矢野酒造様の輸出の取り組みですが、スタートは8年前、日本酒の需要減退、市場縮小のなかでの拡大のための事業戦略として進められています。
海外市場で受け入れられるのは呑んでインパクトのある、たとえばすっきりした味わいながら香り高いようなお酒ということもあり、比較的高単価なものを中心に進められています。
主な輸出先は北米、香港、中国、台湾など。やはり8年前からスタートということで輸出では後発になりますので、なかなか入り込むのも大変です。
そのようなこともあって、米国での市場の入り方として、矢野酒造様では古酒に絞って展開することにされました。
これは先程言いました生酛仕込みの7年物の古酒ですが、ニューヨーク州を中心に、カクテルベースとして、バーやフレンチレストラン、また北欧系料理のレストランで楽しめます。
古酒の、紹興酒のようなまったりとした味わいを活かし、柑橘系のリキュールや、変わったところでは、九州のお酒らしいのですが、柚子胡椒とも合わせたカクテルになり、ニューヨーカーにも親しまれています。
とはいえ、矢野酒造様でもさらに輸出の売り上げを伸ばさなければなりません。現在海外市場向けの全体での売上比率は10%程ですが、これを5年後には15%、10年後には20%まで伸ばすことを目標にされています。
そのためには、矢野酒造様では主要な輸出先の国では、
国ごとの限定商品、
またディストリビューター毎のOEM商品などのラインアップも計画されています。
さて次回は… 矢野酒造様の完結編 杜氏としての矢野元英様の酒づくりへの想い、そして新たな酒づくりへの挑戦!をご紹介します
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