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日本の技、日本の品質、日本の味わいを掲げ、グローバル市場に挑戦している企業様を訪ねています。
世界が追い越していったのか、はたまた日本が衰退したのかわかりませんが、昨今、経済・社会・生活の豊かさなど様々な分野で、世界における日本の地位低下が言われています。しかし本当にそうでしょうか?
日本には世界に誇れる技術や伝統、文化があって、多くの企業様の努力によりその価値が各国で認められています。さらに、そうした既存プレーヤーに加えて、新たに自社の商品・技術の世界への発信にチャレンジしている企業様もあるのです。
このシリーズでそのような企業様が、いかにグローバル市場に挑戦されているのか、皆様に紹介したいと思います。
第1弾は、東京の酒蔵である
石川酒造株式会社様です。
(https://www.tamajiman.co.jp/)
石川酒造様は、東京多摩地区の福生市、多摩川の河岸段丘の上に酒蔵を構えており、幕末文久年間から酒造りに取り組んでいます。日本酒に加え、クラフトビールも品揃えをし、東南アジアへの輸出拡大に取り組んでいます。
その取組みはまさに異端児、
日本酒市場の主流とは一線を画すものでした。
そのブランド
「多満自慢」(日本酒)「多摩の恵」(クラフトビール)を引っ提げて、
海外市場に挑戦です!
今回はいよいよ完結編!石川酒造様のマネージメント、そしてお待たせの海外進出、
そして歴史をご紹介します!
ユニークな
マネージメント
さて、石川酒造様は、今回お話をきいた小池さんが40代、前迫さんが30代と、年齢的にも中堅のお二人がキーパースンとして、会社実務を仕切っているわけですが、これには少し意外に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
中間層リードやボトムアップで経営を行う、いわゆる大手の経営スタイルと異なり、通常の中小の独立系酒蔵では経営者がトップダウンで経営から、営業や酒造といった実務まで引っ張るところが多いかと思います。
そのなかで、このお二人が実務を仕切っておられる石川酒造様の経営スタイルは、非大手の酒造メーカーとしては独自のものであると言えます。
当主である石川社長のお考えは、
「枠線を書くのは社長の仕事、これに色を付け、線を足したり消したりするのが社員の仕事」
とのことで、小池さん、前迫さんに実務はほぼ権限移譲されています。
そのなかで小池さんは、たとえば企画では、スピーディに、
「すぐやる」、「ヒトのやらないことをヒトより速く(早く)やる」
をモットーにされています。部下からの企画の提案もあっと言う間に決めて実行してしまうので、社長へのホウレンソウは事後報告ということになることも。
コーポレートガバナンスを前面に出した大企業経営、たとえば稟議を回すスピード感では、これは実現できないところです。
今回石川酒造様を訪問して、あらためて社員の皆さんの活力、会社としての元気のよさを感じましたが、こういったところに理由があるのかもしれませんね。
お待たせしました。
いよいよ本題!
石川酒造様の
海外展開
「国内市場が停滞するなかで海外市場に活路を求める、海外での売り上げを伸ばしたい」というのは日本酒業界で共通した流れです。石川酒造様もここは例外ではありません。
海外市場でどう展開し、どうブランディングを強化し、いかにして売り上げを伸ばそうということに日々尽力しています。
国内市場では、石川酒造様は直営店をいわば起爆剤としてオンラインや企画を仕掛けてゆくBtoC主体の戦略をとっていますが、これを海外で展開するのは、少々ハードルが高いようです。
自前の直営店を海外で設け、運営してゆくのは相当な資源が必要になります。オンラインショップにしても海外販売店等に運営をゆだねるしかなく、日本からできるのは。越境ECで細々とつなぐ程度のことです。
そのようなわけで、石川酒造様も海外では、オーソドックスな現地代理店を設定、そのルートから市場を開拓するBtoB展開をとっています。
しかし、求める酒蔵としてのアイデンティティ、市場に問う日本酒は、国内向けと一貫したものでありました。
やはり借り物でない、「石川酒造様ならでは」のものでなければブランディングができない、これは海外市場でも同じだと考えたのです。
石川酒造様が海外で展開しているのは、国内と同様、「雑味は旨味」、甘口で能淳な、日本酒としては複雑な、華やかな味わいのお酒です。
海外でも主流である「あっさりした辛口の口あたり」、「きりりとしまったのみごたえ」という路線とは真逆を狙ったものです。
ところが、これは簡単に受け入れられませんでした。
まず石川酒造様が狙ったのは、フランスやイギリス、アメリカといった欧米やオーストラリアでの展開。
しかしここはワイン文化の国々。食事のなかで、食事にワインを合わせゆくことを楽しむスタイルが定着しています。
そこでの日本酒の位置づけは、ずばり「ワインの代替」。あっさりした吞み口の日本酒が求められるというものでした。
そんななか、これと真逆である「多満自慢」の、濃淳で複雑な味のものは現地のディストリビューターにはほとんど相手にされず、石川酒造様もこれらの市場から早々の撤退を余儀なくされました。
そこで次に狙っていったのは、アジア市場。
特に小池さんも手応えを感じたのが東南アジア市場です。
暑く、湿気も多いこれらの国々では、濃い味付け、時に
ベトナムのように甘い料理が主流になるところもあり、
「多満自慢」の味で市場を築けると考えたのです。
小池氏さんのなかで、これが確信になったのが
2022年9月のシンガポール訪問でした。
日本の輸出元とその現地法人により現地での展示会に出展、
そこで実は私も同行していたのですが、
そこで「多満自慢」を展示会に出したところ、
かなりの反響を得ました。
今、小池さんが東南アジア市場でも特に期待しているのがベトナム市場です。
ここの日本酒市場はまだまだこれから。市場に出回っている銘柄も2~3ほど。
日本酒は日本食レストランで楽しむ、というスタイルしかほぼなく、家呑み市場もまだまだ小さいです。
シンガポールや香港では、富裕層による家庭での消費市場があるのですが、それはベトナムではほぼ、ないのですね。
しかし、これはこれからの伸びしろという部分と小池さんは考えています。
香港、台湾、シンガポールなどすでに日本酒市場として成熟した大型市場より新規参入の余地が大きい。
特に甘い味付けが多い
料理のなかで、
濃淳で華やかな
「多満自慢」の味の路線も
嗜好に乗ってくると考えています。
2022年11月には現地にも出張し、あらかじめ設定しておいた現地NO.1の販売店と取引を確立していて、現地では相当件数のレストラン訪問も行うことができました。
一方、「酒飲みのテーマパーク」、ここを本来インバウンド需要に活用し、海外でのブランディングにも繋げたいところですが、それは小池さんによれば、「今後の課題」ということです。
石川酒造様の立地は福生市、横田基地からも程近く、近隣で英語の話せる比率も高いところではあります。しかし外国人の来訪者で欧米からの方々が多く、東南アジアはシンガポールが3番目にはいるくらい。
自分たちの狙ってゆく東南アジアの方々にもっと多く、「酒飲みのテーマパーク」を訪れて頂きたい。今後東南アジアの方々の雇用も検討して、インバウンドで東南アジア市場に繋げられる仕組みづくりに組んでゆきます。
さて、そんな石川酒造様が
歩んだ歴史、
どのようなものだったでしょうか?
石川酒造様の創業は
幕末の文久3(1863)年、
多摩地域出身中心の壬生浪士組が
新選組と名乗りを変えた頃でした。
もともと石川家は
在地の熊川村の名主の家柄。
その13代目が
お酒造りを始めました。
周辺の田は収穫量が多く、余剰米を活用しようというのが始まりです。
当時休業していた多摩川の対岸にある森田酒造で日本酒の醸造を行ったのがきっかけでした。
その後明治の初期に、熊川村(現福生市熊川)の現在地にて酒蔵を構え、醸造を始めました。
明治19(1887)年、石川家14代目の当主のときにビール醸造を始めましたが、わずか3年で中止しました。
当時はシャンパンのリユースのボトルとコルクをヨーロッパから取り寄せ瓶詰めし、大八車で運んでいたそうですが、冷蔵設備も舗装道路もないなか、瓶の破損は全体の1/3に上った事もあったそうです。
加えて、ビールはまだ富裕層のみが
嗜む高級品。
今と異なり需要も大きくなかった故に売り上げも伸びなかったそうです。
一方
日本酒としての酒造りですが、
これを本格化したのは昭和、戦後まもなくのことでした。
GHQによる農地改革で、蔵元で保有していた土地の多くが接収され、お酒造りに行かざるを得なかった事情もありました。
「多満自慢」のブランドを使い始めたのもこのころです。
1975、76年が石川酒造様としての出荷のピークです。国税庁の全国統計によればこれは日本全体の日本酒出荷量ピークから2~3年遅れてのことです。
当時の出荷量はおよそ1万石。そこから出荷量は減ってゆき、現在はおよそ1.1千石。
このような出荷減のなか、平成10(1998)年にはビールの免許制度の規制緩和もあり、クラフトビール「多摩の恵」の醸造を始めました。
明治時代のビール製造から実に111年の年月が経っていました。
現在の免許は日本酒、ビール、発泡酒、リキュール、スピリッツ、そして最近果実酒の免許も取得、2022年12月17日にワインを初出荷しました。
そんな歴史のなかで育った
日本酒の異端児、
「多満自慢」
がベトナムなどで
お酒の定番になればいいですね!
ではまた!
第2弾を
ご期待ください!
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